kmokudaiの読書日記と雑録

もともと読書日記としてはじめたので読書日記に戻します.あと,ちょっとした思いつきなど.研究っぽい話しは,https://researchmap.jp/kmokudai/研究ブログ/に書いてます

池田先生との2年8ヶ月

陸域環境研究センターの池田宏先生が退職されることになり,主に卒業生らによる小冊子を作成した.それへ寄稿した文章である.

私は,まっとうな地形学の講義を受けることなく,学生時代を過ごした.学部,修士では,一応地形学を専門とする先生についたが,高山の植物の生態などに関心がある方だった.博士課程では,講義などなく,フィールドを歩いて穴を掘ってばかりいた.そのような(怪しい)経歴のため,私には,地形学にたいする飢餓感が絶えずあった.そんな私が,どういう訳か,陸域環境研究センターで働かせてもらえることになった.地形学の分野では日本で唯一大型施設を保有し,輝かしい業績を上げている場所である.しかも,私があまり勉強したことのない,河川地形や斜面プロセスの研究などをしている場所である.やっていけるだろうかと一瞬思ったが,それよりも,きっと新しい何かが得られる,そういう思いの方が強かった.池田先生は,私のそういった思いを知っていられるはずはないのだが,「山の地形を理解するには,川のことを知らなければだめ.」「山も川も海もみんなつながっている.」と,実験や,巡検,学生実習を通して,いろいろな事を教えてくださった.
1年目は,分からないことが多かった.受け身の姿勢のせいだったのかもしれない.そんな私に,池田先生は,「何事もやってみることが大事.走り出せばいいんだ.」と声をかけてくださった.私の状態を察知されたのかどうか,今となっては分からないが,その言葉に聞いて,何かを教えてもらおうという考えはやめた.毎日の実験を全て自分の実験だと思い,取り組む事にした.それが,たとえ学生の卒論や,他の研究者の実験であっても.すると,それまであまり分からなかったこともだいぶ理解できるようになった.データを整理して池田先生,飯島さんに見せ,話をする.そして新しい装置を作る.だんだん自分が何をやっているのかが見えてくるようになっていた.
2年目の中頃を過ぎたことから,いくつもの実験を同時に進めるようになった.池田先生はアイデアの宝庫である.池田先生曰く,寝ている間に次の実験の構想が思いつくらしい.水路をどんどん造り,先生が寝ている間に思いついたアイデアを具体化していった.同時に仕事を進めるといままで考えてなかったいろいろな現象の関連性に気がつくようになった.また,各地の調査にも出かけた.私がフィールドにしている赤崩の上から,佐渡島の海底まで.現地で歩いて,見て,測って,議論した.そんな毎日を送っていたら,みんな日焼けで真っ黒になってしまった.そうしたら,池田先生が,私や飯島さん,柚洞君らに自作のTシャツをくださった.胸には「Crazy, Crazy」の文字.もちろんご自身用も作られていた.池田先生曰く「みんなが狂っているから作った.」とおっしゃっていたが,先生が一番似合っているとみな内心思っていた.2005年1月,アメリカからDr. David Rubinが実験をしにやってきた.日本を去るとき,彼は「池田チームは,”Birds of a Feather Flock Together”だ」と言っていた.類は友を呼ぶというような意味だ.それに対して,私は,「池田先生の地形学に対する情熱が,周りの人をCrazy, Crazyにしてしまうのだ.」と彼に伝えたかったのだが,とっさに英語が出てこなかったので,言わなかった.
池田先生は,出会いを大切にされている方だと思う.「地縁,血縁は大事や.」と笑っておっしゃっているが,人と人とのつながりが,仕事を進めていく上で,それ以上に,生きていく上で,重要なことだと認識されているのであろう.広い土地や大型施設があるということよりも,池田先生のパーソナリティーが,多くの人をセンターに呼び寄せるのだと思う.実際,今年センターを利用して実験をした人は10人以上になる.談話会,巡検に参加された方は数え切れない.池田先生のこれまで築きあげてこられたネットワークは,これからの新しい地球科学を作っていく上で貴重な礎となるに違いない.
ますます元気な池田先生.これからも地球を守るためご活躍ください.