kmokudaiの読書日記と雑録

もともと読書日記としてはじめたので読書日記に戻します.あと,ちょっとした思いつきなど.研究っぽい話しは,https://researchmap.jp/kmokudai/研究ブログ/に書いてます

池田宏先生のご退職に寄せて

陸域環境研究センター(旧水理実験センター)には,世界最大級の大型実験水路がある.池田先生は,30年にわたりこの水路を使って河川地形研究を進めてこられた.池田先生の東京教育大学博士課程在籍時のテーマは川底の地形,特にバー(砂堆)についてである.東京教育大学地理学教室では水路実験がすでに行われていたものの,当時日本の自然地理学の分野では水路実験のはほとんど行われておらず,ノウハウの蓄積はなかった.実験は試行錯誤の連続であったと聞く.そのような状況下で池田先生は実験を積極的に推し進めバーの形成に関する研究を遂行された.そのときに使っていた小さな水路が,筑波移転の際に長さ160mの水路へと変身したのである.池田先生は,大型水路で内外の研究者と多くの輝かしい研究成果を挙げてこられた.国内のみならず,海外の研究者が毎年のように訪れてきた.大型水路を利用するために来るのだが,訪れる研究者の真の目的はDr. Ikedaと一緒に実験し議論しながら研究をすることに他ならない.
忘れてならないのが池田先生は,現地を歩き自分の手で測量,観測をするフィールドワーカーであるということである.自然を理解するために実験をする.一見当たり前のことであるが一生を通じてその研究スタイルを貫き通した地形学者を,私は池田先生のほかに知らない.
池田先生は1991年に「地形を見る目」を古今書院より上梓された.それは教科書ではない.今までにない大変刺激的な本である.地形が私たちに何を語りかけているのかをわからせてくれる本である.多くの人に本を通じて池田地形観に触れていただきたいと思う.
池田先生は,旅行が大変お好きである.退職後には,きっと日本,世界の各地を飛び回られることだろう.どうぞお体にお気をつけて.
(茗渓会ニュースレターへの寄稿)