サイエンスアゴラでワークショップ
日本の各地のジオパークにおいて,考古学者の参画があまり進んでいない.行政担当者の中には,考古畑の方がいらっしゃるのだが,その方達は,ジオパークをやるということで,地学のことを理解しなければと考え,アウェーな感じで仕事をされているようである.しかし,基本的なジオパークのコンセプトは,文化財保護行政と割と近いものがあり,考古をしっている行政の方は,実は,ジオパークの今後をううまく回していくために,必須の人材なのだと思う.考古学者が今後ジオパークの活動に積極的に入ってくる道筋が作れればと考え,また,ジオパークコミュニティーの人間に何が足りないのかを考えるため,今回のミニワークショップを企画した.
このスライドは,そのときの趣旨説明のために作ったもの.
ワークショップ 「自然の遺産としての加奈木のツエ」
以下のワークショップを開催致します.ご興味をお持ちの方は,是非,ご参加下さい.
ワークショップ 「自然の遺産としての加奈木のツエ」
目的:四国の室戸半島には,加奈木崩れという大規模崩壊地が存在する.ここは,以前より,崩壊について研究が進められ,最近は室戸ジオパークのジオサイトになり,注目が集まっている場所である.
この加奈木の崩壊地(ツエ)が,地域の自然の遺産として,地域住民に正しく理解してもらえるようになるためには,研究者が情報発信につとめなければならないだろう.ワークショップでは,大規模崩壊地についての地域住民への情報発信と,ツーリズムの素材としての活用にはどのようにすればよいか,研究者,ジオパーク関係者,地域住民とが意見交換をし,その協働モデルをつくることを目的とする.
本ワークショップでは,崩壊地の巡検と,地域住民(含む中学校)での情報発信と意見交換の場をつくる.地形学的な観点や,地域の人たちとの関わりなど,様々な視点で崩壊地というものを考えたい.このワークショップの成果は,今後の室戸ジオパークの活動の中で活かされることが期待される.
後援:日本地すべり学会(申請中),室戸ジオパーク推進協議会
プログラム:
- 11/18(日) 加奈木のツエ巡検
案内者:柚洞一央(室戸ジオパーク推進協議会),目代邦康(自然保護助成基金)
9:00 室戸市役所前集合,9:30 佐喜浜生活改善センター前集合.現地へ移動.
16:00 室戸市役所前解散.
- 11/19(月)
13:00〜14:30 佐喜浜中学校3年生12名を対象にした講演会.
目代邦康「大規模崩壊地のメカニズムと崩壊による河道のせき止め」
池田 宏「流域で土砂移動を考える」
柚洞一央「室戸ジオパークと大規模崩壊地」
ほか
19:00〜21:00 ワークショップ「加奈木のツエについて考える」
会場 佐喜浜生活改善センター(781-7220 高知県 室戸市 佐喜浜町1691)
講演:目代,池田,柚洞.
講演後,近隣住民と意見交換.
世話人:目代邦康(自然保護助成基金)・栗下勝臣(土木管理総合試験所)
参加申し込み
このワークショップへの参加を希望される方は,以下の項目について,世話人の目代まで,11/15までにメールでご連絡ください.
参加申し込み
■参加プログラム(どれに参加するかお答え下さい)
(1. 加奈木のツエ巡検, 2. 地元公民館でのワークショップ)
■氏名(ふりがな)
■所属
■年齢
■性別
■当日現地までの交通手段
保険の手配はいたしませんので,巡検に参加される方は,ご自身でご手配下さい.
古本の書き込み
最近,古本を通信販売で買うことが多いのだが,つい先日買った2冊がどちらも書き込みのある古本だった.一方は,私の蔵書の中で,最上級の扱いをうけるものとなり,もう一方は,店に送り返して返金して貰った.前者は,貝塚ほか(1963)「日本地形論(上)」地学団体研究会である.この本が,小林国夫の蔵書印が押されているものだったのだ.所々に赤線が引いてあり,書き込みもいくつかある.谷津栄寿の河床礫の研究や,海岸についての記述がチェックされている.本への書き込みは,私的な行為で,人に見せることなど想定していない.そのような秘め事ともいえるものを,のぞき見している気分で,なんとも不思議な感じになる.
同じように,書き込みが多い本を,やはり古本屋の通販で買ったのだが,こちらは,学生さんがいろいろ勉強しながらメモしていたようだ.これは,私の読書の妨げになるので,返金して貰うことにした.同じ書き込みであるが,対照的な対応となった.
以下,解説.「日本地形論(上)」は,東大出版会より出ている「新編日本地形論(1973)」の元になった本である.下があるのかというと,地団研からは発行されていない.はしがきには,「下巻に第2部をふくむが,(中略),第2部はできるだけ地方誌風に書いてみた」と書かれている.見込みで書いたのであろう.結局,この上巻の内容に,その後10年の成果が加えられ,新編日本地形論がだされ,下巻は幻になってしまった.
著者に名前の挙がっている方々は,戦後日本の地形学を牽引された方々である.非常に忙しく,地方誌編を書く時間はなかったと思われる.しかし,その企画は,結局,2000年より刊行された「日本の地形」(全7巻)(東大出版会)として,まとめられることになる.
- 作者: 貝塚爽平
- 出版社/メーカー: 地学団体研究会
- 発売日: 1963
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- 作者: 吉川虎雄,貝塚爽平,阪口豊,杉村新,太田陽子
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地理学会ICTシンポ
日本地理学会のシンポジウムでの発表スライドを公開.
北海道の環境と地学
北海道は,日本列島の中で南西諸島とならび豊かな自然環境が広がる大地である.亜寒帯(冷帯)の気候に属し,かつての氷期の影響を受け,生物相や地形などが本州と異なる.地理学や地質学,生態学にとっては非常に興味深いフィールドであり,これまで多くの研究が行われてきている.その成果は,小野有五・五十嵐八枝子(1992)「北海道の自然史」や,東正剛ほか編(2003)「生態学からみた北海道」,小疇 尚ほか編(2003)「日本の地形2北海道」,日本地質学会編(2010)「日本地方地質誌1北海道地方」など,入門書や専門書として数多く刊行されている.今回,そこに新たな一冊が加わった.
この本の章立ては以下の通りである.第1章 北の気象と天気,第2章 川,湖と海,第3章 北の山,第4章 火山と温泉,第5章 北の地形,第6章 雪層と地層,埋もれた文化と化石,第7章 岩石・鉱物・鉱床,第8章 地震,第9章 経験から科学へ−防災と自然エネルギー研究−,第10章 北海道の生いたちと今後.気候から,地形,地層,災害,そして先住民やエネルギー問題など,地学現象と環境について幅広く書かれており,著者の広い興味と見識が伺える.本書では,写真や地図が多く使われている.これは,読者が自ら学べるようにという著者の考えに基づくものである.この本は,広い分野について書かれており,北海道の自然について概観することができる.しかし,地形図の使い方などいくつか気になる点も存在する.ここではその点について指摘したい.
一つは,地形図に縮尺が示されていないことである.それぞれの地学現象のところで,国土地理院発行の地勢図,地形図などを用いて,該当する範囲を示している.しかしこれらの地図では,スケールが示されておらず,また拡大・縮小の割合も示していないので,地形の規模がまったくわからない.地形図の図幅名が示されていないものも多く,該当地形図を参照するのも容易でない.地形の属性として,大きさは重要なものである.地形図に関する基本的な情報の欠落は大きな問題といえよう.
ほとんどの記述の中で引用文献が明示されていない点も問題である.文献を引用していても,その書誌情報はない.また,オリジナルと思われる地形分類図など示されているが,同様の理由で,それが引用してつくられたものなのか,独自の調査によるものなのか判断できない.例えば,p.53図?-6 幌尻岳・戸蔦別岳周辺の地形の図は,旧記のカール地形が新期のカール地形よりも下流の標高が低い位置に描かれている.このような分布はありえず,著者に氷河作用に関する誤解があると思われる.
- 作者: 日下哉
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