鈴木秀夫「風土の構造」

この本は,気候学の入門書となる地球の自然環境に関する内容と,我々の生活,文化としての風土を合わせて論じている.いまでこそ,自然科学と文化現象を合わせて論ずる本は散見されるが,初版がだされた1975年当時に,一人の研究者の論考としてまとめられているものは多くない.自然科学者と人文・社会科学者が書いたものをあわせて1冊にするものはいつの時代もあり,多くは無難な結論しか導きだせないが,一人の研究者の思考の中で構成されているものは,大変ユニークであり,それを紡ぎだす労力は大変なものであるが故に貴重なものである.
 鈴木秀夫は現代の科学の枠組みで言えば,地理学者であり気候学者であるが,彼の研究対象範囲は,気候学にとどまらず地球上のあらゆる事象に及んでいる.いうなれば風土学者であろうか.それは,この後1980年に「森林の思考・砂漠の思考」で文明を論じ,1990年に「気候の変化が言葉をかえた」で言語を論じていることからわかる.
 この本の中の離婚の論考は,鈴木の思考の柔軟性と面白さが凝縮されているものである.我々は,日常の出来事を,個人的な感情,理性に基づいた意思決定により営まれていると思い込んでいるが,これは勘違いであることが多い.それは人間の生活より遥かにスケールの大きな現象を認識できないためである.この本は,このような人間が直感的に認知できないスケールで起こっている現象を,伝統的な地理学の手法を用いて示し,我々の認識の境界を押し広げてくれる.様々なスケールを自由に行き来し,比較,相対化し,明快に論じていく思考を,この本から学びたい.

風土の構造 (講談社学術文庫)
鈴木 秀夫
4061588192