kmokudaiの読書日記と雑録

もともと読書日記としてはじめたので読書日記に戻します.あと,ちょっとした思いつきなど.研究っぽい話しは,https://researchmap.jp/kmokudai/研究ブログ/に書いてます

形の科学.

 私たちが,目で見て美しいと感じるのは,多くの場合「形」の美しさについてである.モノの「形」とは何か?という問いは,哲学でもあり,最先端科学でもある.そういったことに気づかせてくれるのが,「形の科学百科事典」である.この本を編集した形の科学会(Society for Science on Form, Japan)は,1985年に設立されたモノの形やパターンに関して研究している科学者からなる学会である.様々な分野の,形に関して興味をもつ研究者が集まっている.
 地球科学の研究では,地層,化石,鉱物,地形など,その形がどのようなメカニズムで作られていくのかということが問題になることが多い.また,各種探査法によって得られる画像データのパターンが何を意味するのかを考えることも多い.そんなときに,いままで関係がないと思っていた事象との共通の形を見つけることにより,問題が解決していくことがある.しかし,そのヒントに出会うのは,多くの場合偶然であり,よほど注意していないと見逃すことが多い.今回紹介するこの本は,形に関する様々な研究分野の研究者が,研究対象としている形について1〜数ページという短い分量で簡潔に解説をしている.その説明は,平易でわかりやすい.形を取り扱う学問なので,形が出発点である.そのため,普段はあまり関わりない分野に関しても,イメージすることができ,すんなり読むことができる.
地球科学に関連する項目の題名を一部を挙げると,「形の宝庫−放散虫」「チャート」「ケイソウの形」「結晶の成長と形」「粒子なだれの形」「風紋と砂丘のダイナミクス」「南極氷床の形」「断層集団のフラクタル」「岩石の組織と構造」「鉱物をつくる形」「隕石の組織から成因を探る」「流域のかたち」などである.様々な地球上の特徴的な形と,その形が作り出される理屈が語られている.こういった,専門に近い項目について読むのも良いが,この本のおもしろいところは,たとえば「脳波のパターン」「昆虫の輝く色彩の秘密」「日本の屋根の形」「ワインの涙と松ヤニの船」「金平糖の角はどうしてできるのか」「あやとりの指運動の基本ルール」「新幹線車両の先頭部形状」などの様々な興味深いテーマについて,同じ本のなかで読むことが出来るのである.この本は,形に対する好奇心が満ちあふれている.少し高い本であるが,様々な思いもかけない発見がきっとある本である.手元に置いて,気の向くままにページをめくって読むのが良いだろう.

形の科学百科事典

形の科学百科事典