kmokudaiの読書日記と雑録

もともと読書日記としてはじめたので読書日記に戻します.あと,ちょっとした思いつきなど.研究っぽい話しは,https://researchmap.jp/kmokudai/研究ブログ/に書いてます

GPにおける神話の扱い

小林祥泰島根大特任教授がくにびきジオパーク構想の趣旨説明の中で、「朝鮮半島に逃れた中国古代の商王朝神官の末裔まつえいを、貴種を求めていた素戔嗚尊すさのおのみことが娘婿として出雲に招いたのが大国主命では」と仮説を挙げ、「歴史・文化の物語性を探る構想で、中国など東アジアとの交流、観光誘客につながる」と話した。 これに対し、千家権宮司は「危うい説が引き合いに出されている」と苦言。小林特任教授は「あくまで一つの説。物語性のある話題が、東アジアとの交流のきっかけになればという狙い」と理解を求めたが、千家権宮司は「物語性のために物語を作るべきではない。ひんしゅくを買うような飛躍はしないでほしい」と述べた。

神話の舞台 内外に発信 : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

FBで話題に上がった,くにびきGP構想の神話の扱いについて.私のコメントを転載.

先月上旬に,くにびきGP構想に呼ばれて講演してきました.そのときには,ボトムアップ,ジオコンサベーション,持続可能な開発に重点をおいて話をしてきました.各地域では,とても良い活動をされている方がいる一方で,ジオパーク認定に向けての活動は「神話」に重きを置いています.過疎が進むなかでコミュニティーをどのように再構築していくかというリアリティーのある話と,私の話した地学的遺産の保全とは,ジオパークのロジックで繋がりますが,それらに対して,作り話でしかない神話を中心にジオパークをまとめるという考えは,あまりかみ合わなかったと感じました.なんらかのストーリー性を持って地域を語ることは,ビジターに対してわかりやすく,面白く伝えることができるので一定の効果があることはわかりますが,それ以上のものではありません.逆にステレオタイプでしかそこの場所を理解できなくなる,さらにいえば権力性を帯びるものでもあることは注意すべきことかと思います.そうならないためにも,語られる内容には科学的な担保が必要なわけで,それがないのであれば,改善すべきでしょう.「ジオストーリー」は,調味料のようなもので,根本は素材であるgeoheritageそのものにもっと目を向けなければいけないと思います.私の講演のあとのパネルディスカッションで,フロアーから「神話」を前面にだすことで,見えなくなってしまう地域の文化,歴史があるという意見がでていたので,内部で改善されていくのではないかという多少の期待は持っていたのですが,このニュースを見るとまだまだ大変なのかな思います.

日本地理学会シンポジウム「ジオパークを通して考える科学と社会の関係」

 3/22に早稲田大学で行われた日本地理学会春季大会のシンポジウム「ジオパークを通して考える科学と社会の関係」。地理学会会員でない人にも、多数講演していただき、いろいろ考えることができました。

 松尾先生の話しについては,地域の自然環境保全まちづくりという点で,実際の制度をどのように設計していけば良いかという点で,大変勉強になりました.こうした,成功している事例,失敗している事例などを研究し,日本でも,ジオパークだけでなく,諸制度をどのように活用していくべきか,具体的に考えていく必要があるように思いました.今回のお話しいただいたことをベースにして,それを発展させた形で何かしらの議論の場をつくりたいと考えております.

 そうした発展性のある議論としては,鬼頭先生にご提案いただいた,TGKについても,今後いろいろと考えていきたいと思いました.地理学がこれまで記載してきたものの中から,拾えるものもあると思います.その一方で,多くの地域の地誌を地理学者は記述してきましたが,TGKという視点がなかったため,記載しそこなってきたものも多いと思います.既存の研究の整理と,今後の地域のあり方を考える議論のベースとして,考えを深めていきたいと思っております.

 災害に関しては,総合討論では,属人性の議論など私の興味のあるところでしか,話しをしませんでしたが,自然災害との付き合い方については,今後も深めていかなければいけない議論であり,今回のようなメンバーで議論の場を持つことは,地理学会では,他の学会に比べると比較的容易だと思います.そうした,地理学会の特性も活かして,今後議論を続けていきたいと考えています.

 最後に,渡辺さんに講演いただいた内容についても,十分議論の時間がとれませんでしたが,私は,ジオパークの,サイエンス・コミュニケーションの実践の場としての機能を発揮するためには,専門家と非専門家の間のコミュニケーションも含めて,もっと分析が必要だと考えています.こうした問題についても,今後,考えていきたいと思っております.

 自然保護の問題については,アビックさんのジオパークで先端的な自然保護ができていないという意見と,鬼頭さんの自然保護の枠組みそのものが変化しているという話しは,大変興味深く聞かせていただきました.私も自然保護に関する助成団体に所属しているため,「自然保護」というものが,どのように理解されているか大変気になるところです.アビックさんの指摘のように,確かに日本のジオパークでは自然環境の保護,保全について特に新しい取り組みを展開しているところはありません.一方で,ジオパークになったことにより,そうした活動の重要性を認識し始めた人は多いと思います.そういう意味では鬼頭さんが指摘されたように,「自然保護」そのものの枠組みが変化している過渡期のようにも思えます.この辺は,各地の実態などをみながら,考えていきたいと思っています.

 以下は,シンポジウム後に書いたメモです.
・自然保護は、ある1つのトピックではなく、自然との関係性をどう構築するかという文脈で考える。そうすると、小山さんの言っていた保全と防災を1つにまとめるというのもありかも。但し人工構造物の問題など、検討が必要。
・研究者の役割。現地に長く入って研究を続ける傍ら教育活動などを進めていく(町田さんの実践に基づいた発表)。こうした活動がモニタリングになる(鬼頭さんの発言)。
・松尾先生(専修大)のイギリスの国立公園の調査結果は、大変興味深い内容。再生産が不可能な国立公園に対してナショナルトラストが外部と国立公園をつなぎ、国立公園が維持されている。日本と同じ地域制国立公園で、さらに後発でここまでの違いが生まれる背景は?
・防災やアダプティブマネジメントには、スキルの高い研究者が必要だが、中心となる人物の能力に依存するのでは。しかし、良い実践を積み重ね、情報を共有することで、属人性問題は解消できるだろう。
・今回のシンポジウムの内容は、ジオパーク地域資源の特集に。

2016謹賀新年

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2015年もお世話になりました.
昨年は古今書院から「シリーズ大地の公園」を発行させることができました(九州編,関東編が遅れていますが).また,電子ジャーナルの「ジオパーク地域資源」もどうにか,軌道に乗せることができそうです.皆さんには近々お目にかけられると思います.
本年もどうぞよろしくお願いします.

新刊「中部・近畿・中国・四国のジオパーク」

古今書院が出している「地理」で,2011年5月から2013年8月にかけて,「ジオパークを歩く」という連載を行った.この連載は各地の人にそれぞれのジオパークの見所を紹介してもらうというものだった.その時,その連載を全4巻のシリーズものにして古今書院が発行することになり,オーガナイズした縁もあり,そのシリーズ監修をすることになった.自分で全部書いたシリーズ本の編者にはなったことがあったが,人が書いた原稿を集めて本にして,その編集,監修を行うのははじめて.古今書院さんもがんばってくれて,2000円台で刊行することができた.

ジオパークでは,「ジオストーリー」が大事だと,いつの間にか言われるようになったが,それがそもそも何なのかということは,よくわからない.それを理解し質の高い者にしていくためには,まずはそれぞれのジオパークの中で活動されている方に,それを語ってもらい,それを見て考えるしかない.実際にこの本の編集をしてみて,それぞれの地域でジオストーリーがどのように考えられているのか,ぼんやりとながらイメージがつかめてきた.誤解を恐れずにかけば,「地域のシステムを意識した,地球科学+人文地理学をベースにした地誌のようなもの」といえる.「検証が不十分な人文地理学の仮説」のようなものもある.今後,そのジオストーリーに関して,どれだけ証拠を用意できるのかということは,地域できちんと調査,研究ができるのかということ同じことである.また,面白いジオスト―リーとは,独自の視点で地域を語ることであり,そうしたものが生まれてくるようであれば,ジオパークのおもしろさの幅が広がっていくことになるのだろう.

いつまでもスタート時に構成したジオストーリーをそのまま語っているようでは,進歩がない.ジオ資源を掘り起こし,調査を進め,価値を高め,地域の様々な事象との連関を新たに見出す.そして以前よりも一回りスケールの大きなジオストーリーを構築していく.こうした活動が連続的に行われていることが,ジオパークの活動にとって重要なことであろう.

 

助成財団に関する研究

現在の勤務先は,助成財団なのだが,助成財団を対象とした研究は,それほど多くない.それぞれの財団のカラーがあるため,一概に傾向を論じにくいが,そうであっても研究動向やその時の社会情勢などをよく反映した採択案件になっているため,そういったデータを分析すれば何らかのげんしょうが語れると思うのだが.

最近目にした助成団体に関しての論説.

矢野孝一(2014)市民の公益活動を支援する助成団体等に関する考察―我が国における助成団体の類型化と、事業助成の現状と課題―.龍谷大学大学院政策学研究3:215-228.

日本ジオパーク全国大会南アルプス大会

日本ジオパーク全国大会が,南アルプスジオパークで開催された.そこで分科会「ジオパークユネスコエコパーク」のオーガナイズを行う.

当日の講演者のスライドは(協力が得られれば)

講演の記録: 日本ジオパーク南アルプス大会分科会E

にまとめる予定.

このセッションでは,特に南アルプス,白山など日本GP(日本国内での認定)とBR(世界での認定)の重複地域地域を持つ地域が,今後どのように整理をしていくのかということを念頭に置いてプログラムを組み,議論をすすめた.

ジオパークは,現在ユネスコ正式プログラム化に向かって進んでおり,その中の議論でGPとBR(世界遺産も)について重複する場合は相乗効果による価値付けが必要となる.相乗効果について,どのようなものを指すのかは明確ではないが,これまでの事例で言えば,オーストラリアのウルルーカタージュタ国立公園が,1987年に世界自然遺産に登録されていて,その後先住民族がこの地を聖なる山として崇拝していることからその価値を評価し世界文化遺産に指定し,結果的に複合遺産になり,よりこの地の価値の評価が適切に行われるようになったようなことなどが,相乗効果の例として考えられる.

このように考えると,現在BRに指定されている南アルプスで,GPの範囲を3県に広げ,その上で世界GPを目指すということはありえるのだろうか?ユネスコの動きや現在のGGNでの議論などを踏まえると,恐らくというかほぼないだろう.現在は日本GPという国内認定なので,併存しているが,世界となると併存の可能性は,積極的にそれをした方が良いという理由がないので,ないと考えて良いだろう.特に南アルプスの場合は,GPが3県に拡大すると現在のBRの範囲とほぼ近いものになる可能性が高い.同じ範囲で二つのプログラムを走らせるというのはないだろう.

さらに,南アルプス地域では,静岡県が中心となって世界遺産の登録も目指している.しかし,こちらも全域がBRとなった以上,こちらの芽ももうないと考えて良いのではないか.世界遺産の候補地が,IUCNの審査をうけたのち,世界遺産ではなく,他のプログラム(ジオパークやBR)を勧められるということが,世界遺産委員会で起こっている.これは,いずれかを選べということであって,ユネスコの中で複数プログラムの重複を勧めないということの現れであろう.

これから新たな登録,認定を目指す地域は,決断が迫られている状況ともいえる.